【2019年8月1日から】日EU EPAの一部運用の簡素化
2019年2月1日に発効した日EU-EPAですが、8月1日から一部運用が簡素化されました。日本への輸入時に適用しやすくなりましたので輸入者にとっては朗報です。ただし、EUの原産品であるという十分な確証がないままEPA税率を適用すると、後々ペナルティを受ける可能性があります。 関税削減を利益を得る際には輸入者としての責任も負うことを十分理解するようにしましょう。
自己申告制度の概要
日EU-EPAでは、従来のEPAのような商工会議所が発行する特定原産地証明書は使用することができません。輸出入の当事者(輸入者、輸出者、製造者)が自ら原産性を証明する仕組みが採用されています。これを「自己申告制度」と呼びます。
EUから日本へ貨物を輸入する場合、自己申告の具体的な方法には下記の方法があります。
1.輸入者が原産品申告書を作成する
まず輸入者が、EUの輸出者から製品がEU原産であることを証明する書類を入手します。証明書類としては、原材料のリストや製造工程表などが使用されます。原材料リストは、各原材料の原産国やHSコードが記載されているものです。製造工程表は、EU内でどのような加工を行っているかを示すものです。それらを入手して、EU原産であることを申告する書類である「原産品申告書」を作成します。さらに、EU原産品であると判断するに至った理由を述べる書類として、「原産品申告明細書」を作成します。この原産品申告明細書には、添付書類として原材料リストや製造工程表を添付します。
まとめると、次の3種類の書類が必要です。
- 原産品申告書(「この製品はEU原産品です」)
- 原産品申告明細書(「EU原産品である理由は○○です」)
- EU原産品であるという根拠になる書類(「EU原産品であるという判断をした根拠となる書類はこれです」)
※畜産物、鉱物等の完全生産品の場合、3)の根拠となる書類は不要
2.輸出者または製造者が原産品申告書を作成する
この方法の場合、インボイス等の取引書類上に輸出者又は製造者が、協定で定められた原産地申告文を記載します。輸入者側から見ると、1.のように自ら原産地申告書を作成する必要がありません。事前に輸出者に対して、インボイス上に下記の原産地申告文を記載するように依頼をすれば済みます。
(Period: from …………… to …………(1) )
The exporter of the products covered by this document (Exporter Reference No ……… (2) ) declares that, except where otherwise clearly indicated, these products are of ………… preferential origin(3) .
(Origin criteria used(4) ) ……………………………………………………………
(Place and date (5) ) ……………………………………………………………………
(Printed name of the exporter) ……………………………………………………………………
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page6_000042.html (外務省日EU EPA情報ページの「協定文書」”ANNEX 3-D “より引用)
上記の原産地申告文は、日本語とEU加盟国の言語のいずれかを使用します。ほとんどの場合英語が使用されますが、仮に不慣れな言語で記載されていても各言語の申告文が上記リンク先の“ANNEX 3-D”に記載されていますので、文言に間違いがないか確認することができます。 あなたが日本からEUへ貨物を輸出する立場であれば、EUの輸入者から上記の文言を記載するように要請されることもあるでしょう。 その際のインボイスはほぼ間違いなく英語で作成すると思いますが、原産地申告文も英語で記載すればよいです。
実は、2019年7月31日までは、EU原産品を日本へ輸入する場合は、原産品申告文の他にも書類が必要でした。その必要書類とは、「1.輸入者が原産品申告書を作成する」と同じく、「原産品申告明細書」と「EU原産品であることの根拠となる書類」です。しかし、実務上は「 EU原産品であることの根拠となる書類 」を入手することが困難でした。なぜなら、輸出者側が製品の原材料一覧や製造工程表を輸入者へ提示することは、営業秘密を明かすことになるからです。そのため、EUからのインボイス上に原産品申告文はあるが、根拠資料が手に入らないため、日本へ輸入する際にEPA適用をあきらめるという事例が、この半年で多く起こりました。次に、いよいよ2019年8月1日からの変更点を説明します。
輸出者が原産品申告文を作成する場合、根拠書類の省略が可能になった
2019年8月以降、日本側の輸入者がEPAを適用したいときにEU原産品であることに係る追加的な説明(資料)が提供できない場合、原産品申告明細書とその根拠書類の提出を省略できることになりました。
輸出者自己申告に基づいて特恵待遇を要求する輸入者であって、原産品であることに係る追加的な説明(資料)を税関に提供できない者は、以下の通り、提供できない旨をNACCS上で入力できます。なお、この場合、当該追加的な説明(資料)の提供は不要です:
1.本年8月1日からの暫定的な運用
NACCSでの輸入申告の記事欄(税関用)に、下記のとおり文言を入力する。(和文若しくは英文で入力する)
日本語の場合:私は産品が原産品であることに係る追加的な説明は提供できません。
英語の場合:I cannot provide an additional explanation on the originating status of the product.2.本年12月(予定)からの運用
http://www.customs.go.jp/roo/text/eu-3-16.htm 税関ホームページより。下線、太字は筆者。
NACCSでの輸入申告時に、原産地識別コードを入力する。(詳細については別途周知)
NACCS(税関、通関業者等をつなぐシステム)での輸入申告は、輸入者が通関業者に依頼をすることがほとんどです。よって、輸入者としてはインボイス上に原産品申告文が記載されていることを確認したら、通関業者に「インボイス上の原産品申告文によってEPAを適用してください。追加資料は入手することができません」と伝えれば済みます。あとは、通関業者が輸入申告の際にシステムに上記下線部の文言を入力することでEPA税率を適用して輸入することができます。これにより、日本へ輸入する際にEPA税率を適用して関税を下げられる機会が大きく広がりました。ただし、次の注意点があります。
事後調査でEPA税率適用が否定される危険性
税関は、EPA税率を適用して輸入申告がされた場合、輸入者にその根拠を問い合わせたり、追加資料の提出を求めることができます。その要請は、輸入許可が下りた後に事後で行われることもあります。そのため、輸入申告をした際には税関から何も問い合わせがなかったにも関わらず、忘れたころに税関から調査が入る可能性があります。
誰に事後調査が入るのか
1)輸入者が原産品申告書を作成して提出した場合
日本の税関が輸入者に調査をします。輸入者は、税関から求められた追加説明(資料)を提供する必要があります。
2)輸出者または製造者がインボイス等に原産品申告文を作成した場合
日本の税関はまずEUの税関へ問い合わせをします。その後、EUの税関が輸出者または製造者に追加説明(資料)を要求します。
責任を負うのは誰か
上記2)の場合、輸入者に調査は入りません。輸入者に問い合わせても輸入者は情報や資料をもっていないためです。しかし、仮にEU側での調査の結果、EU原産品であることが否定された場合、輸入者がペナルティを払う必要があります。EPA税率を適用して本来より安い関税しか支払わなかったことになるため、修正申告を行い、本来支払うべきであった関税を事後で納付します。その際は関税に対する延滞税が課せられます。さらに、当初納付した関税額と本来支払うべきであった関税額の差額が大きい場合、加算税というペナルティも課せられます。
輸入者としては、輸出者がインボイスに記載した内容を信じてEPA税率を適用しました。原産品申告文は輸出者が記載しているため、その真偽(本当にその製品がEU原産品であるかどうか)までは輸入者にはわかりません。それでも、関税の削減という便益を受けるのは輸入者であることから、EUの原産性を否定されれば輸入者が税関へ関税やペナルティを支払う必要があります。
関税やペナルティを輸出者へ請求できないのか?
輸入者が追加関税やペナルティを納付した後、それを輸出者へ求償することは自由です。輸出者に過失があったのであれば負担してもらえる可能性はありますが、あくまで交渉次第です。
逆にあなたが日本からEUへ輸出する貨物についてEUの輸入者から原産品申告文を要求された場合、十分な調査を行って日本原産であるという確証を得てから原産品申告文を記載するようにしましょう。その際には、どのような基準を満たせば日本製であると認められるのかという、「原産地規則」の理解が必要です。日本で製造しているからという理由だけで安易に日本製であると宣言してしまうと、後日輸入者から関税を負担するように要求される恐れがあります。
まとめ
日EU EPAは自己申告制度により、商工会議所に特定原産地証明書を発行してもらう必要がありません。その代わり、輸出者や輸入者といった当事者自身が責任をもって原産性の判断を行う必要があります。今後、日本が締結するであろうEPAでも同じような自己申告制度が採用される可能性が高いです。輸出入者自身が原産地規則やEPAのルールについての理解を深めていくことが、関税削減という利益を得るために必要です。不明な点、不安な点があるときは税関や専門家に相談をしてみましょう。
なお、この記事に関するお問い合わせや専門家への無料相談はこちらから!
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