関税削減の恩恵は誰に?

関税削減の恩恵は誰に?

関税削減効果の享受者と関税削減コストの負担者

 FTAやEPAで関税を作成した場合、関税削減効果の享受者は誰でしょうか?関税は、輸入者が輸入する際に輸入国に対して支払うものなので、その享受者は輸入者です。

 一方、FTAやEPAを使って関税削減する場合の資料等の準備コストは輸出者にかかってきます。つまり、FTAやEPAを活用するためには、「特定原産地証明書」を取得してインボイスに添付しなければいけません。そして、その証明書を発行するためには、対象となる産品の原産性を証明しなければなりません。その産品の原産性を証明するには、輸出者側の情報をもとに輸出者が作成する必要があります。このための作業コストは輸出者が負担します。

 FTAやEPAの活用の難しさは、このように関税削減効果の享受者と関税削減コストの負担者が輸入者と輸出者で異なるという点です。それによって、輸出者側に協力を仰ぐことが難しく、輸入者はFTAやEPAを活用した関税削減のメリットを享受できないといったケースも見受けられます。

輸出者にとってのメリット

 それでは、輸出者にとっては全くメリットがないのでしょうか?輸出者にもメリットはあります。直接的なメリットはありませんが、輸入者が該当の産品を輸入するにあたり支払う金額が減ることになるため、その産品の価格競争力が向上します。例えば、FTAやEPAを活用することで関税が削減され、その結果国内の同じ商品を扱うメーカーより海外から輸入した方が安いということになれば、輸入者は国内からではなく海外からより多く仕入れるといった選択も起こり得るのです。それによって、輸入国における輸出者の市場シェアを高めることも可能になるのです。

 また、海外に子会社があるような多国籍企業の場合、親会社が原産地証明書を発行するというコストを負担しFTAやEPAを活用することで、海外子会社の輸入コストが下がります。これにより、子会社の自国内における価格競争力向上によるシェアアップや、仕入値が安くなることによる子会社側の利益改善が可能になります。

輸入者による自己申告制度

 最近では輸出者だけでなく、輸入者も原産地証明書を発行できる自己申告制度を持つFTAやEPAも登場しており、日本の場合は、日・オーストリア EPA、TPP、日 EU EPAで採用されています。これら以外の日本のEPAで採用されている第三者証明制度と比べ、この自己申告制度は手続きが簡素化されています。ただ、あくまで自己申告制度は、原産品申告書の「作成者(輸入者、輸出者又は生産者)」が貨物の原産性について十分な情報を有しており、税関から説明を求められれば対応できる場合に利用する制度です。

 したがって作成者となる企業側で原産性を正しくチェックし、適切に申告する義務は今まで通り変わっておりません。自己申告制度であっても第三者証明制度同様に企業側での体制作りが不可欠になります。

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