再輸入免税を適用するための条件と必要資料
- 2019.08.13
- 関税
関税の免税、減税、戻し税の制度
日本へ貨物を輸入する際は、関税と消費税を国へ納めなければなりません。ただし、関税定率法や関税暫定措置法において定められた条件を満たす場合には、関税が免税または減税されます。一旦関税を納付した後に払い戻しを受ける「戻し税」という制度もあります。例えば、下記のようなものがあります。
- 変質、損傷等の場合の減税又は戻し税等(関税定率法10条)
- 加工又は修繕のため輸出された貨物の減税(同11条)
- 無条件免税(同14条)
- 再輸出免税(同17条)
- 航空機部分品等の免税(関税暫定措置法4条)
- 加工又は組立てのため輸出された貨物を原材料とした製品の減税(同8条)
この内、無条件免税(関税定率法14条)は、さらに下記のように細かく分かれています。
1号(皇室用物品)
2号(外国元首等物品)
3号(国際機関等が寄贈する勲章等)
3号の2(国連等からの寄贈物品等)
3号の3(国際博覧会等のカタログ類)
4号(記録文書その他の書類)
5号(政府等が輸入する専売品)
6号(注文の取集めのための見本)
6号の2(品質表示ラベル)
7号(携帯品)
8号(引越荷物)
9号(送還された公用品)
10号(再輸入貨物;減免戻税適用貨物を除く)
11号(再輸入貨物の容器)
13号(遭難した船舶等の解体等)
14号(事故によって戻された貨物)
16号(身体障害者用器具等)
17号(ニュース映画用のフィルム等)
18号(少額貨物)
数ある減免税の制度の中で、今回は関税定率法14条10号の再輸入免税を適用できる条件について解説します。
再輸入免税の概要と必要条件
「再輸入免税」とは、関税定率法第14条第10号に規定される「本邦から輸出された貨物でその輸出の許可の際の性質、形状が変わっていないもの」を本邦に輸入する場合に関税が免税される制度です。
http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1609_jr.htm (税関ホームページ)
再輸入免税は、比較的適用されるケースが多い免税制度です。次の2点を証明することで免税を適用することができます。
1.「本邦から輸出された貨物」
2.「輸出の許可の際の性質、形状が変わっていないもの」
再輸入免税を適用できるのは、例えば次のような経緯で貨物の再輸入をする場合です。
・日本製の機械を販売のために輸出したが、輸出先で不具合が見つかった。不具合原因の調査のために日本へ再輸入をする。
・日本製の製品を販売のために輸出したが、誤って数量を多く発送してしまった。輸出先が余剰分の受け入れを拒否したため、返送してもらい再輸入する。
・海外での展示会に製品見本を展示するために輸出した。展示会が終わったため再輸入する。
次に、具体的な必要条件や必要書類について説明します。
一つ目の条件: 「本邦から輸出された貨物」
まず、「本邦(日本)から輸出された貨物」であることを税関へ示す必要があります。具体的には次の書類や資料を提示します。
必要資料1 輸出許可通知書
本邦(日本)から輸出された貨物であることを証明する書類は、原則として輸出許可通知書です。輸出許可通知書は、日本から貨物を輸出する際に税関へ輸出申告を行った後、税関の審査や検査を経て交付される書類です。「輸出許可書」と呼ばれることも多いです。
ただし、輸出許可書だけでは不十分です。なぜなら、輸出許可書には、金額、HSコード、インボイス番号などの情報は記載されますが、具体的な貨物を特定するための情報が足りないからです。具体的な貨物を特定するための情報とは、下記のような情報です。
- 製品名
- 型番
- シリアル番号またはロット番号等の固有性のある番号
- 注文番号(PO No.)
輸出許可通知書には上記の情報は記載されないことがほとんであるため、輸出許可書を補足する書類等として以下のものが求められます。
- (輸出許可通知書)
- 輸出インボイス
- 往復文書
- 貨物写真(シリアル番号、ロット番号の確認ができるもの)
必要資料2 輸出インボイス
輸出インボイスは必ず輸出許可通知書とセットで必要です。前述のとおり、輸出許可通知書には具体的な貨物を特定する情報が不十分です。具体的な貨物を特定するための情報とは、販売名、型番、数量、シリアル番号、ロット番号 などです。これらの情報は通常、日本から輸出する際のインボイスに記載されていますので、輸出許可書とセットで輸出時のインボイスが必要です。また、輸入申告の際には輸入インボイス(海外から日本向けのインボイス)を税関へ提出しますが、輸出インボイスと輸入インボイスの間で貨物の一致確認が取れる必要があります。 具体的には、販売名、型番、数量、シリアル番号、ロット番号 が一致することを確認します。
必要資料3 往復文書
さらに、日本にいる輸入者と海外にいる輸出者との間の往復文書も求められます。往復文書とは、再輸入をすることになった経緯がわかる、輸入者と輸出者とのやりとりの文書ことです。実際は、次の情報が記載された電子メールを印刷して税関へ提示します。
- 貨物の品名や型番
- 数量
- シリアル番号またはロット番号
- 注文番号(PO No.)
- 再輸入をすることになった経緯がわかるやりとり
輸出インボイスと輸入インボイスに同一の品名、型番、シリアル番号等が記載されていれば、同一の貨物が日本へ戻ってきたことがわかりそうなものです。ただ、税関は再輸入に至ったストーリーも求めます。メールでのやり取りを提示することで、輸入しようとしている貨物が確かに日本から輸出したものであることを裏付ける証拠となります。
必要資料4 貨物写真(シリアル番号、ロット番号の確認ができるもの)
インボイスやメールといった文字の情報だけでなく、貨物写真を提示することでより信憑性が高まります。単に貨物(製品)全体の写真だけではなく、特に重要なのがシリアル番号やロット番号と言った固有の番号が記載された箇所(ラベル、銘板など)の写真です。品名や型番が一致するだけでは、輸出許可書+輸出インボイスのセットで提示している個体との同一性を確認することができません。同じ型番で別の時期に輸出した貨物でないと言い切れません。シリアル番号は機械、器具類に付される1台ずつ固有の番号ですので、確実に同一性の確認ができます。ロット番号は、製造工場、製造日、製造ライン等ごとに与えられるため、同じロット番号 を持つ製品は多数あります。ただ、化学品、食品等の機械類でないものはシリアル番号は付されていませんから、代わりになる固有性のある番号としてロット番号で同一性の確認をします。
必要書類は税関の求めにより変わることがある
なお、 「1.輸出許可通知書」と「2.輸出インボイス」は必ず必要ですが、「3.往復文書」、「4.貨物写真」については必ず毎回求められるとは限りません。輸入申告先税関の担当官によって、 一部の書類や写真の提示を省略してもらえることもあります。これについては、輸出インボイスや輸入インボイスでの情報の豊富さによって変わることが多いです。例えば、もし輸出インボイスにシリアル番号の記載がなければ絶対免税ができないわけではなく、往復文書や貨物写真によっていつ輸出した個体であるかを客観的に示すことができれば、税関に免税を認められることもあります。また、写真が提出できない場合や往復文書の内容で再輸入の経緯が十分説明できない場合、さらに別の書類等の提出を求められることもあります。どのような書類が求められるかは個別の案件によります。
二つ目の条件: 「輸出の許可の際の性質、形状が変わっていないもの」
日本から輸出したときの状態と再輸入するときの状態を比べて、性質や形状が変わっていないことが必要です。性質や形状が変わっている例と、変わっていない例は次のとおりです。
【性質や形状が変わっている場合】
- 海外で改造、修理等を行った。
- 破損等により形状が著しく変わっている。
【性質や形状が変わっていない場合】
- 輸出先で開封していない。
- 開封して使用したが、形状が変わっていない。
- 些細な加工もしくは修繕のみしたもの(ねじ締め、油洗い、注油等)。
性質や形状が変わっていないことは、日本から輸出する際(輸出する直前)の貨物の写真と、輸入貨物の写真や現品を比べて同一性を確認することによって確認します。輸出する際に再輸入する予定がなければ写真を撮っていないことが多いですが、その場合は同型番の別の個体の写真やカタログ等の写真で代用します。再輸入時の貨物の確認は、通関業者が内容点検を行って写真撮影等を行うことが多いです。
まとめ
再輸入免税は、数ある免税制度の中では比較的適用できる機会が多い制度です。ただし、いつ輸出したどの個体かということを客観的に税関へ示す必要があります。インボイスやその他の資料、書類上の情報によって、輸出した貨物と輸入しようとする貨物の同一性を税関へ示すことができなければ、免税を受けて輸入することができません。
もし、同一性を示す証拠が不十分なままで輸入申告をして、税関が証拠が不十分であるため免税を認められないと判断した場合、免税金額によっては加算税というペナルティが課される可能性もあります。そのため、再輸入免税を適用できるかどうかは、通関業者に依頼して税関への事前相談を行うことが重要です。
なお、税関への事前相談や免税条件を満たすことの説明書類の準備等を通関業者に依頼する場合、通常の通関料とは別に免税手続きの手数料を請求されることが多いです。内容点検によって輸入時(輸入通関直前)の貨物写真を撮影する場合には、内容点検や写真撮影の作業料も必要です。事前に免税手続きにかかる手数料の金額を確認し、それに見合った免税を受けられるのかどうかを判断してから免税通関を依頼するようにしましょう。
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